朝一番に、つぶやくひとこと | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

朝一番に、つぶやくひとこと

ヤバいことになってきた。

金がないのだ。

失業保険をもらいながら、

職業訓練を受けることが、

どうやら可能となった。


ひたすらその連絡を待っていた訳だが、


支払いが、失業保険給付日の前で、

金を払えなくなる状態にあった。


ひとりきりなので、

自炊し、


風呂も、

三日に一回とか、

四日に一回とか、

週に一回とか。


節約する部分は限られていた。

今やほとんど金を使っていない生活だった。


食料がなくなると買いにいく。


そんな生活だった。



その朝、ぼくは奇妙な夢を見た。

父や母が出てきて、

さらには見知らぬ女性も出てきて、

その女性と、

良い案配になるという、

いわゆる願望充足な夢だった。

どれだけ鬱積してるんだよ、俺。

そう自問せざるにはおえなかった。

ただ、

すこし奇妙なことは、

三度立て続けに、夢の続きを観たということだった。

その女性との関係性が、

徐々に上がってゆく。

お決まりの、

最もクライマックスなところのちょい手前で目覚めるという。

まったっくもう。

なんてこと。


こんなこともあるのかな。


連ドラじゃないんだから。


僕は夢に浮かされた気分を鎮めるために、

朝風呂に入った。


足先が冷えていて、

暖まるまでかなりの時間を要した。

磨りガラス越しの日差しが眩しかった。


僕は、今朝見た夢を反芻する。


何故か、登場人物は違えど、最近見る夢の舞台は同じだった。


子供の頃住んでいた借家。


父と母と僕が、

僅かな期間だが一緒に過ごした場所。


今住んでいる家も、

そんな昔を思い起こさせるような、

古い住宅だったが、

当然ながら、よい想い出なんてなかった。


ぼんやりとしながら湯につかっていると、

壁のタイルに、小さな虫が張り付いていた。

近づいてよく観てみると、

それは、

米粒大のナメクジだった。


洗面器に湯をすくって、ナメクジにかけた。

少しだけ縮んだが、しっかりと張り付いている。

今度は勢いよく湯を浴びせたら、

あっけなくはがれ落ち、排水溝に消えていった。


こんなちいさな虫も、

命にはかわりないのだな。


僕は、ナメクジを洗い流したことに、


少しだけ後悔した。


多分、

下水の中で、

元気にやっていくだろうと、

都合良く考えながら。


僕は風呂から上がり、

服を着替えて、疲れきった顔を鏡で見た。

昔と、

子供の頃と何一つ変わってはいなかった。

特に、

精神的には。


僕は大きく息を吸い、ゆっくり吐き出してから、

言葉を発していた。

思わず出てしまった、というような感じで。



「さあ、生きるか」


その日初めて口から出た言葉だった。