わたしのお仕事 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

わたしのお仕事

一日に、5件ほどだった。

携帯に連絡が入り、

客先へ赴く。

場所はホテルだったり、

自宅だったり。

オフィスだったこともある。

客のほとんどが、

わたしが何者か知らない。


わたしは支払われる料金によって、

客の要望に応えるだけだった。

おかしな客も多く、

わたしの体を縛り上げたり、

奇妙な衣装を着させられ、

行為に及んだりもする。

一度、行為の際に首を絞められ、

意識を失ったことがあった。

直ちにバックアップ要員に回収され、

蘇生させられた。

記憶やその他の障害もなかった。

同業者には、

行為に及びながら死に至らしめることを専門とするものもいた。

彼らの多くは、重い記憶障害に悩まされ、

任期を全することなく、

退任していった。


我々だから出来ることだと、

人はいった。


フリークめ。

陰ではそう蔑まれている。


我々の存在がなかったとするならば、

世の中の性犯罪率は、30%は上昇するだろうと、

どこかのアナリストがいっていた。


私たちは、もっと誇りを持つべきだとも。


なぜ、わたしたちは意識を備えているのだろう?

それは私たちを苦しめる。

意識のない人形であったならば、

悩みや苦しみを抱えることもないはずだった。

悩みや苦しみを抱えるということが、

人間らしさ、なのか?

しかし、

我々は、人として扱われてはいない。


物、だ。

物以外の何者でもない。

意識を、

心をもった、

物だった。



その日、私はクリニックへいった。


表向きは、一般の病院だったが、

地下一階の「精神疾病治療室B」の扉の向こうに、

私たち専用の部屋があった。


「調子の悪い箇所はありますか」

そう、エンジニアがわたしに訪ねてきた。

「左手の震えがとまらないの」

わたしは答える。

「わかりました。ソフトウエアのアップデートで対応できますので、こちらへ」

わたしは椅子に座り、スリープモードへ入った。

頭蓋を開かれ、何本かのケーブルが差し込まれる。

エンジニアがわたしの目の前で手を振って、

意識の有無を確認しているようだった。

わたしは微動だにせず、

意識がないことを装った。

エンジニアからは、緊張の色が消えた。

「ふん」

エンジニアが下卑た笑みを浮かべる。

「全く悪趣味なこった。こんなものがあるから、出生率が下がっちまうんだ」

手がわたしの胸に伸び、乱暴に握りつぶしてくる。

エンジニアがわたしの目を覗き込む。

目が嫌悪で細くなる。

「このセクサロイドめ」

エンジニアはそう吐き捨て、奥の部屋へ消えていってしまった。

目の前のモニターに、

ソフトウエアのアップロードの残り時間がバー表示されている。


わたしは悲しかった。


意識がなければ、

心がなければ、

わたしはきっと幸せだったろうに。


そのとき、

視界が歪んだ。


頬に熱いものが伝ってゆく。


わたしは涙を流していた。

泣いていた。



なんて滑稽なの。

泣いてしまうなんて。

ロボットのわたしが。



わたしはただのセクサロイドだっていうのに。