時計 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

時計

時計が壊れた。


ほう。


まあ、いいか。




あるとき、


車のグローブボックスに投げ込まれたままのその時計を観ると、


秒針が外れ、分針の下に嵌り込み文字通り時が止まっていた。


この時計を修理をする必要など無い。

壊れてよかったと思う。


この時計は、娘の母親に選んでもらった時計なのだ。


あいつの呪縛から逃れろと、時計が言っているような気もするくらいに。


時計は死んだのだ。



宝物を売り払い、その金でこの時計を買った。

嫌な思い出でしかない。こんな時計!!



娘の母親に時計を選んでもらった経緯はこうだ。



俺の唯一の宝物。

そう。

以前付き合っていた女性から、スイス製の高級時計をもらった事がある。


結婚したとき、その時計を娘の母親が発見し、激高した。



女の人から贈られた時計を、大事にしているなんて、考えられる!



何故女性からの贈り物だと、娘の母親にはわかったのか?


多分、俺の所有するものの中で、唯一高価な品物で、

そんなものを俺が金を払って買う訳がないと思ったに違いない。


実際にその考えは、当たっていた訳だが。



俺と娘の母親は、この時計を持って、時計屋を回った。


個人の時計店が一番高い値をつけてくれた。


六万円だった。


俺はそのうちの二万の予算で、新しい時計を娘の母親に見繕ってもらった。


娘の母親が選んでくれたその時計は、

どうみても俺の趣味では無かったが、

女房に選んでもらった時計を身に付けるのも悪くないと、そのときの俺は思ったのだった。


残りの四万は娘の母親に渡した。



その時計を使い始めて五年か六年は経っただろうか?




俺は最後までこの時計に愛着が湧かなかった。


時計が壊れてから、

俺は携帯で時間を確認しているのだが、

どうしても、手首が寂しくてならなかった。


時計がないというのは、俺にとってとても不安なことで、


何だか落ち着かなくて。



驚いた事に、

職場の連中を観ると、時計を巻いているやつなど一人もいなかった。


みんな携帯が時計代わりなのね。


なんだかなあ。



Amazon

楽天。


ネットで腕時計を眺めてみる。



どうしても、クロノグラフタイプの時計に目がいってしまう。



そう。



俺が以前所有していた宝物は、

スイス製のばかでかい機械式クロノグラフだった。


出来る事ならば、

もう一度、買い戻したい。


ひと月分の給料以上のその品物を。