老人〜リローデッド | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

老人〜リローデッド

その日は気持ちのよい朝だった。

俺は珍しく、布団の中で一時間以上グズグズすること無く、

すぱっと起き上がることが出来た。


こんな日は、


いつだってよい日になるに決まっていた。



がしかし、

そうはならなかった。



あの声を聞くまでは。


「お~~い、起きてるか」


俺の鼓動は16ビートになり、

それはまるでクソの中に顔を突っ込んだようで、

気分を示すレベルゲージは、最低を突き破って測定不能だった。



ああ、


なんてこった!


俺は無視しようと刹那思ったが、

もはやそうすることは出来ずに玄関へ向かった。



玄関の扉を開ける。


老人はすでにいなかった。

道まで出て、老人の家の方角を見た。


ゾンビ。

一瞬そう思った。

そこには骸骨が長靴を履き、何か鎌のようなものを握って、

こっちへ向かってゆっくりと歩いてくる。


俺は恐怖した。

「お~い、元気か」


俺は声を出さずに首だけ動かす。

隣近所に、老人との会話を聴かれたくはなかった。


「この間は、ありがとうな」

そう。

この前、俺は酒屋へ行き、

日本酒とビール券を買い老人宅へ届けたのだった。

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そのときの俺は、

いろいろと考えたものだ。

こんなものを持っていっても、まず受け取らないだろうと思った。

普通ならば。

それもそうだろう?

お礼を催促したなんて、普通は思われたくないはずだから。


しかし老人は、受け取った。


「今日は仕事か?」

俺は首をかしげる。


「おまえじゃ出来ねえんだから、俺がそこをやってやらあな」

老人は俺の家の庭を鎌で示しながらそう言った。


俺は何も返答せず、


家の中へ入った。


「ちくしょうめ!何なんだよ!まったく」


なんたることだ。

俺につきまとわないでくれ。

俺の世界に土足で踏み込まないでくれ。


俺はあんたが嫌いなんだ。

何故なんだ?



もう。


引っ越す以外に、手だてはない?