悪夢、それはありふれたこと。 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

悪夢、それはありふれたこと。

「酷く胸が悪くなって。まるで犬の糞を食ったみたいだった。吐いたら黒いもんが出て来たよ」

「いったい何食ったんだい?」

「何も。何も食ってない」

「………」

「とにかく腹が痛くて、むかついて、眠れなかったんだ。おまけに鼻血まで出て来た」

「おいおい、大丈夫か?」

「ああ、血は吐かなかったよ。しかしな」

「しかし、何だ?」

「仕事は休んだ」

「………」

「何だかおかしくなっちまったのかな。俺の体」

「風でもひいたんだろう。そんなところだろう、心配すんな」


「今日は気分がいいんだ。窓を開けてると、風も心地いいな。暑さも去ったのかもな」

「ああ、こっちも快適だぜ。また、会おう」

「またな」




目覚めると、外は暗く、

仕事に行く準備をしなければならなかった。


目覚める前、嫌な夢を観た。

訳の分からない黒い影が出て来て、

俺にこう言うのだ。


~本気で死ぬ気なら、十階建て以上のビルから飛び降りる事だ。

 おそらくお前は、飛び降りた瞬間後悔する事だろう。

 しかし、

 そのとき既に遅し。


 どうあがいても、二、三秒後にはあの世行きだ。


 その二、三秒。


 その短い一瞬で、人の生を悟るのさ~




仕事に出かける前に、米を炊いた。

卵と豆腐を炒める。


虫の鳴き声。

車の走りすぎる音。


それらは何のリアリティーも無く、

夢の中の言葉が、

いつまでも、

頭の中に響いている。




単なる夢だった。

どうという事も無い。


数時間後に仕事だ。

ただそれだけ。

まったくもって、

なんてこともない。


気にしない事だ。


冗談じゃない。

俺は気分がいい。

今までになく、気分がいい。

ああ。

そういうこと。