仕事のこと | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

仕事のこと

会社の駐車場。

俺は五分前まで、車の中でラジオを聴いていた。

夏の日差しは容赦なかった。

通勤のための車の列が、生け垣越しに明滅して見えた。


俺は考えていた。


今日帰宅したら、何をやろうか、と。



仕事が始まって、まだ三日というところだったが、

俺と同じ入社日の若者は、早くも音を上げている。



「この仕事、僕には向いてませんよ。外で汗を流す方が、いいな」



密閉された空間。

黄色い照明。

管理されたクリーンな空調。

狂信的な、新興宗教のような防塵服。

それが俺たちの職場だ。


なんて事だ。



給与もよくはなかった。


それでも、ましな方なのかもしれない。



少なくとも、前職よりは圧倒的に休みは多い。


携帯が鳴った。

「よう。仕事の方はどうなのよ」

「ああ。まるで真空パックされたドブネズミのようだぜ」

「そいつはすげえ。まあ、慣れればチワワかミニチュアダックスフントくらいにはなるんじゃないか」


俺は笑いながら、話を続けた。


「昼に、どこかで落ちあおうか?」

「それもいいな。仕出し弁当喰らってから、行くか」

「そうしよう」


俺は携帯を切った。

俺の職場でも、仕出し弁当が食えた。

驚くくらい安い値段で、量も多い。

それでも、俺は弁当を持参する事になるだろう。


俺は車を降り、職場へ向かった。


草の匂い。

排気ガスの匂い。

車の音。


会社と家の往復。



なんてこった。


また、はじまっちまった。


こんなこと、望んでないのに。