物音 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

物音

物音で目が覚めた。

聞き覚えのある音だった。

シュレッダーのモーター音。

もしや、娘の母親がやって来て、荷物でも取りに来たのではないか。

荷物を取りに来たついでに、不要な書類を裁断しているのでは?

俺は人の気配を察知しようと、耳をすませた。


家の中に人の気配はなかった。


俺は思い出した。


玄関ドアにはチェーンがかけてあることを。


音の方向は、家の中ではなかった。

どうやら隣の家からのようだった。


幻聴ではなかったのだ。



一日のうちに、何度、娘の事を思い出してしまうのだろうか。


俺は期待しているのだ。


娘の母親が、

娘を連れて荷物を取り入くる事を。



起き上がり、洗面台に映る髭面の自分を見た。



どこかの知らない男。


それとも、親父の若かりし日の面影。


不思議だった。


俺は歯を磨き、


また布団に戻った。


外の物音。

蝉の声。

ねっとりとした空気が肌に張り付く。


また音がした。

今度は、扉を開ける音だった。

いい加減にしてくれよ。

来るなら連絡ぐらいよこせってんだ。

俺は布団からはい出し、

玄関へ向かった。



チェーンを外し、

ドアを開ける。







「何だってんだ」









外には誰もいなかった。