失業保険 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

失業保険

その日。

俺は失業保険の手続きに、職安へいった。

新しい職も、すべてが完璧ではなかったので、就業には躊躇があった。


選択肢として、

失業保険の給付を受けながら、さらに仕事を探す事はできないだろうかとも、考えていたのだ。


ローンを払いながら生活出来て、職探しも出来る。



失業保険次第だった。



すでに、来月分を生き抜く金など、残っていなかった。



俺は十分前に職安に到着し、失業保険を受けるための初回講習会場へはいった。


既に会場はすし詰め状態だった。


俺は壇上にいる職員へ、証明写真を渡してから席に着いた。


会場を眺めると、


若い女。

若い男。

中年。

老人。

肥満。


まるで、すべてのタイプの人間を集めたようだった。

ここに集められた人間は、

はたして、どんな心持ちでここのパイプ椅子に座っているのだろうか?

多分俺と同じだろう。

説明なんてどうでも良いから、いったい幾らもらえて、いつ支給されるのだ、と。


すぐにビデオの上映が始まった。

ビデオに出てくる俳優はみたこともない連中ばかりだった。

ひょっとして、現在は失業し、コンビニでアルバイトをしているかもしれない。

俺はそんな事を考えながら、巨躯の女と、白髪頭の間から、テレビを見つめていた。


その後に職員の説明を聞かされた。

メモをとるにしても、テーブルなど無かった。

みんな膝の上に紙を置いて、なんとかメモをとっていた。


二人目で、俺の失業給付の書類が出来上がってきた。

日額支給の額をみて、俺は愕然となった。

その金額に、三十をかけると、おおよその、ひと月分の失業保険額がわかったが、

とても生活出来る額ではなかった。


選択肢の一つが、消えた。


俺はすぐに帰りたかったが、説明は延々と続いた。

俺はふと、隣の席の老人の、失業保険証書を盗み見た。

日額支給額が俺よりも、二千円以上高かった。



外は雨だった。

俺は車を走らせながら、どこに行こうかと考えていた。

行くあてなど無く、ただ闇雲に車を走らせていた。


頭に浮かんだのは、借金について。

さて、

どうやって払うのか?


俺は気分が悪くなり、それを振り払うようにアクセルを踏み込んだ。