頭痛 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

頭痛

「人生は、わからない」

映画 ベンジャミンバトン数奇な人生より





その日。

俺は頭痛で起き上がる事が出来ずに、しばらく布団の上でのたうち回っていた。

のたうち回りながら一度、友人になんとなくメールした。

~頭痛がひどくて、たまらんよ~

友人からの返信を読んで、俺はだた笑うしかなかった。


~酒の飲み過ぎかい?~




会社をクビになってから、職安で紹介状を発行してもらった二社に、

履歴書と職務経歴書を郵送した以外に、俺は何もしていなかった。


飯を作る気力も、なかった。


腹が減ると、家の外へでて、適当なところで飯を食った。

それだけで、ひどく疲れてしまうのだった。



頭痛薬を飲んで、ぼんやりと天井を眺めていると、色々な考えが頭の中に浮かんでは消えて行った。

ふと、とんでもない事実に俺は愕然となった。


今の俺を必要としている人間は、この世に一人もいない。


最悪な考えだったが、それ以外、何も思い至らなかった。

眼を閉じても眠れなかった。

外は晴れていて、掃除機をかける音が聞こえてきた。

母親が子供を叱る声も。



猫の鳴き声が聞こえた。

鳴き声は家の中からだった。

俺は起き上がり、猫に餌と水を与えると、ある事に思い至った。


俺を必要とするものは、ここにいた。

猫。

俺は猫を抱き上げ、胸に抱きしめた。

なんだか、泣きたい気分だった。


この世に俺を必要とする生き物は、この胸に抱いた猫一匹だ。


それは救いなのか。

それとも、絶望か。


腕に力を込めた。

猫の呼吸が止まるのがわかった。

俺は腕の力を緩めた。

それから、優しく頭を撫でてやった。



猫はグルグルと喉を鳴らし、俺を見つめていた。