労働基準監督署 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

労働基準監督署

その日は、雨だった。


俺は目覚めると、労働基準監督署へ提出するための、解雇に至る経緯説明のメモを作成した。

そんなものが必要かどうかはわからなかったが、そうするように教えてくれた人がいた。


その人は、即日解雇などあり得ないし、法律に抵触するといった。


メモはパソコンで作り、プリンターがないのでUSBに格納したデータを、コンビニで印字した。


労働基準監督署には、相談を受ける「客」は俺一人だった。


解雇通告書をみせ、俺は状況を説明した。


答えは明白だった。


法律上、解雇通告はひと月前で、即時解雇する場合、三十日分の給与を支払えばそれで良いという事になっている。

つまり、会社側は何の落ち度も、ない。

労働基準監督署もお手上げらしい。

唯一、不服を申し立てて、話し合いの場に持ち込むという方法があるが、強制力はなく、拒否されればそれで終わりだという。

会社側は、完璧な仕事をしている。

つまり、これで終わりだった。

「古狸が」

俺は思わず呟いていた。


何も出来ないと知ると、俺は逆に気分が良くなった。


今朝作った書類は、何の役にも立たなかったが、俺はその書類も、解雇通告書と一緒に、相談員に提出した。


外に出た。

雨はさらに強くなっている。


頭の悪い、お坊ちゃん社長だと侮っていたが、それくらいの事は、労務士を使って処理出来る。


当たり前の事だった。


その日の朝に、古狸から携帯に電話があった事を思い出した。


多分、健康保険証の事だろう。


俺は放って置くことにした。


そんな事より、やらねばならない事が、あった。


俺は車に乗り込み、職安へ向かった。