解雇 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

解雇

午前零時を過ぎた。

今夜も眠れなかった。

俺は、今日一日の出来事を思い出していた。





二千十年六月十七日十時五十分。

俺は出社し、タイムカードを押した後、社長に声をかけられた。

「三時に大事な話がある」

俺はわかりましたと、笑顔で答えた。


職場に着いても、俺はその事ばかり考えていた。

胃が痛くなった。

また、血を吐きそうだった。

話の内容は、おそらくは、解雇通告だろう。

いや、解雇という手段はとらないような気がした。

自主的に退社するように、迫るに決まっている。
(しかしながら、俺に退職を迫るような材料は無かったようだ。例えば仕事上のミスとか)

解雇ならば、会社側は金を払わなければならないからだ。

この会社が、そんなものに金を払うはずがなかった。


俺は胃の痛みに耐えながら、ただ時間が過ぎるのを待った。

三時五分前に、社長のもとへ行った。

部屋へ入る前に、携帯の録音機能をオンにした。

社長と対面し、一枚の紙切れが俺の目の前に差し出された。

解雇通知書だった。

驚いた事に、解雇通知書には今日の日付をもって解雇とあった。


信じられなかった。


通常、解雇通告は、最低でもひと月前ではなかったのか?


それでも俺は、承諾する以外になかった。


もうたくさんだった。


健康保険証も今すぐ出せと言われた。

健康保険証はいつも持ち歩いていたが、俺は家に置いてあって出せないと嘘を付いた。


解雇通知書には、労働基準法第二十条による解雇手当は現金で払うと、書いてあった。

こんな意味のない計算式も、それなりの信憑性を演出し、次の行に続いていた。

三ヶ月総支給額÷三ヶ月総日数×三十日

その下に、実際の金額が書かれてあったが、もらえる金額は、ひと月分より少なかった。

俺はその場で、現金を受け取り、職場に戻った。

この仕打ちは、いったいなんなのだと思いながら、

ひと月前に解雇を通告され、ひと月間働き続けるよりはましかもしれないとも、俺は思った。


俺は上司とパートのおばさんの眼を盗んで、トイレでもう一度解雇通知書を読み返した。


~売り上げ低下により、現時点では人件費がでないため、また~

~最近の経済情勢から全体的に不振であるため配置換えが出来るほど会社に余裕がありませんので~


もっともらしく書かれた会社の事情も、俺にとっては何の意味もなかった。

ワープロで印字された解雇通知書の言っていることは、要するにこうだった。




今日でクビだ。明日からこなくていいから。