見舞いと、用件を伝える事とは、別だ。 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

見舞いと、用件を伝える事とは、別だ。

四日?五日ぶりか?
娘とその母親が見舞いにやって来た。
いや、見舞いではなかった。
町内会の総会に出ろ。
それを伝えに来ただけだった。
俺は総会の日も入院している。
娘の母親は、病室から一時的に外出できないか医者に訊けという。
あんたが俺の代わりに出席できないのか?

「私は出られないから」

疑わしいが、そういう事らしい。

汚れた衣類があったが、持ち帰ってはくれなかった。

自分で洗えるでしょう。
洗剤も売店で売っているでしょう。

娘とその母親は、ほんの数分で帰っていった。

「さあ、明日は早いからもう帰ろう」

娘と言葉を交わす暇もなかった。
帰り際、娘は俺の方へ振り返ると、微笑みながら手を振った。
俺も手を振って娘を見送った。
暫くして、俺はある事に気付く。
洗剤を買う金も、洗濯機を回す金も持ってはいなかった。



入院して、一週間が経った。
食事はなく、水すらも口にしていない。
そういう病だから仕方がない。
それでも、腹に付きかけた肉はあまり変わらない。
もうじき、飯が食える。
今は、それだけが楽しみだった。
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