頭痛 10DAYS~これは危険ではないか?
深夜目覚めると、頭痛だった。
とてもバイトなど、行ける状態ではなかったので、休みの連絡を入れた。
これはもう、我慢の限界だ、というより、このまま、我慢すべきではないと、
俺の体が言っていた。
朝に、保険証を出してもらい、仕事に遅れてでも、医者に行くべきだと決心した。
金はまず、もらえないだろう。
保険証さえもらえれば、それでいい。
近頃は、カード決済できる病院もあるらしいことを、
先日、ブログの読者から、教えてもらったのだった。
俺は考えた。
病院へ行くから、保険証を出してくれと、娘の母親に頼んだとする。
ごく普通の家庭ならば、保険証とあわせて、治療代も出すだろう。
俺が一銭も、持ち合わせていないことを、娘の母親は知っているのだ。
もしも、金すら出さないとしたら。
娘の母親の、残酷さがわかろうというものだ。
俺を殺したいのか、どうか。
これは、ひとつの判断材料だった。
そして、決断を迫られる。
俺が娘の母親を殴り倒し、金を持ち出して医者へ行くか、
金がなくて、医者に行けずに、頭の中のものが破裂し、俺が死ぬか。
いずれにしても、俺にとって、アブノーマルな状態に変わりはない。
それから俺は、数時間眠り、朝を迎えた。
頭痛は酷くなっていた。
居間で優雅にくつろぐ娘の母親に、俺は言った。
「保険証を出してくれますか」
「……なんでそんな言い方する訳?」
他人に対しての、言葉遣いなのだ。
それが当然だろう。
俺はそれ以上何も言わず、ただ黙っていた。
それから、娘の母親は、支払いの話を始めた。
そんなことは、今の俺にとっては、どうでもいいことだった。
早く保険証を受け取り、医者へ行きたかった。
話が終わると、最後に保険証の場所を、娘の母親が言った。
俺はその場所を探したが、保険証などありはしなかった。
俺はいったんキッチンへ行って、水を飲むと、もう一度、居間へ戻った。
同じ場所を、もう一度探した。
やはり、保険証はなかった。
「そこじゃなくて、こっちでしょうよ!」
娘の母親が、声を荒げる。
それなら何故もっと早く、そうだと言わないのだ。
俺が保険証を見つけられないでいるところを見て、楽しんでいるのだ。
この屑野郎が!!
どこまでも、根性がひん曲がってやがる。
俺は、保険証を手にすると、一呼吸置いて、その場にとどまった。
娘の母親は、何も言わなかった。
俺は職場に向った。
仕事に休みはなかった。
今月は、一日たりとも。
俺はいつもより少し早く職場に行って、雑務を片付けて、医者に行くつもりだった。
しかし、それはかなわなかった。
とんでもない量の仕事をこなし、時間が過ぎてゆく。
総合病院ならば、カードか使えるはずだったが、職場の者に、それは止められた。
そんなことをすれば、受診は一日ががりになるだろう、と。
何故、近くの街医者へ行かないのか。
俺にそう尋ねる。
俺は、答えられなかった。
金、もってねえんだよ。
医者に掛かる金も、ねえんだよ。
心の中の叫びは、そのまま奥深くへ沈み、緩やかに俺の心を蝕んでいった。
さらに、頭痛が酷くなった。
俺はもう、
これ以上、働けないかもしれない。
