対等な対価~そんなものは幻想に過ぎない | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

対等な対価~そんなものは幻想に過ぎない

部屋に、汚れた食器の山が投げ込まれた。


その音で、俺は目を覚ました。


今はいったい何時なのだ。


そう思ったが、時計を見ようとも思わなかった。



何も変わらない。


それだけがわかった。



トイレに立とうと思って、腰に激痛が走った。


いつものことだった。

それでもなんとか起き上がり、トイレに行った。


用をたしながら、俺は考えていた。



一日、実労十四時間だった。


移動に費やす時間が約四時間。


残り四時間のうち、風呂に入ったり、洗濯したり、皿を洗ったり、飯を食ったり。


本を読む時間すら、有りはしなかった。



そういえば、蟹工船の一日の労働時間と一緒じゃないか。




労働者は資本家に労働力を提供し、


資本家は労働者に、その日の仕事量に見合う労賃を支払う。


これが労働力と賃金の等価交換であるとするならば、


俺は、屁ほどの仕事もしていない、ということになる。


その屁みたいな労働対価は、一円たりとも俺の元に入ることはなかった。




俺の娘の母親は、自分の好きなことを家で悠々と行い、


事あるごとに、銭がないと喚く。


まあ、娘の母親に言わせれば家事労働だけでも、


十分もの言う権利はあるのだと、言うに違いない。


それでも、おかしいんじゃないか?


お前は何様だという、気持ちは拭いきれない。


俺は、自分の世話はすべて自分でやっている。




洗濯も。


飯の支度も。


後始末も。


何もかも。


すべてだ。




身の回りの必需品までも、自分の小遣いで買わねばならなかった。



それでも、俺の娘の母親に、給与のすべてを握られ、


あんたに渡す金などないと、ぬけぬけと言われる。


ついに、僅かな小遣いすら渡されなくなった。


これでは、靴下一枚も買えないし、医者にも行けないではないか。



冗談じゃなかった。



部屋に戻り、痛みをこらえながら、布団に潜り込んだ。



その日。


仕事は休みだった。



目を覚まし、時計を見やったとき、俺は衝撃を受けた。


14時間も、眠っていたようだ。


俺の娘とその母親は、飯を食っているようだった。


当然、俺の分は準備されなかった。



俺は娘たちの会話を聞きながら、キッチンで、あるもので立ったまま食った。


それも、蟹工船と同じだった。



~蟹は貴様らの都合に合わせちゃくれねんだ!座って飯を食う暇なんてねえんだよ!~



飯を食い終わって、会社に提出するレポートを思い出した。


俺はパソコンを立ち上げ、娘の母親が風呂に行っている間に、モデムの電源を入れた。


ネットで資料を集める。


そんな作業は、時間をあっという間に浪費した。


娘の母親が戻ってきたようだ。


おそらくは、モデムの電源が入っていないか確認しているはずだった。


風呂に入っている間、俺がネットをやるなどもってのほか、ということだ。



搾取する側は、徹底的に搾取する対象を管理し、搾り取れるだけ搾り取る。


見返りなどあるわけもなかった。



すぐに、壁一枚隔てて、娘の母親が、喚きだした。


「パソコンばかりやりやがって!」


俺は仕方なく、パソコンの電源を落とした。


「○○ちゃん(娘の名前)、パソコンばかりやる男の人とは、付き合わない方がいいわよ!」


娘がわかったと、答えている。



俺はもう、自分の感情を抑えることが出来なかった。


部屋中のものを拾い上げ、あたりかまわず投げつけた。


机に拳を叩きつける。


置きっ放しの酒瓶を取り上げ、叩き付けた。


何故か、割れなかった。


椅子をひっくり返し、扉に叩きつける。



一通り暴れると、馬鹿らしくなってきた。



居間から、俺の娘の母親の、普段と変わらない声が聞こえてきたからだ。


頭痛がした。


鎮痛剤を飲み下し、



俺はそのまま家を出て、図書館へ車を走らせた。




図書館の明かりは消えていた。


その日。


図書館は休館日だった。





日々を生きる。~妻よ。おまえはいったい何を望んでいるのか。


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