詩 「わたしのために?笑わせるな!」
俺は今まで、食いたいものを要求して、
それが叶ったことは、
結婚してから一度たりとも無かった。
焼肉が食べたい。
蕎麦がたべたい。
牡蠣がたべたい。
すべて、却下だった。
そんな食べ物は、この世には存在しないとでも言うように。
そして、食いたくないものばかりが、食卓に並んだ。
いや、
アイツが食いたいものだけ並んだ、といった方がいいのだろう。
現在。
俺はその食卓に、座ることも許されなかった。
食い物の恨みは恐ろしい。
そのことを、
いつかアイツは思い知ることになるだろう。
食い物だけではなかった。
就職活動のため、スーツが必要だとアイツに言ったとき、黙殺された。
青山で(コナカでもいい)、一万円のスーツでかまわないから。
イーオンなら、もっと安いかもしれないから。
そういっても、返事は無かった。
俺は、恐ろしく古めかしい冬用のスーツで、初夏、企業を回った。
二つボタンの、ダサいスーツ。
(まあ、仕事がなかなか決まらなかったのは、そのスーツのせいというわけでもないのだけれども)
仕事が決まり、
仕事に必要な靴がほしいといったとき、渡されたのは千円分の商品券だった。
その商品券は、デパートなどでしか使えなかった。
たった千円で、靴が買えるはずも無かった。
前職で、作業用のシューズが支給されていた。
ほとんど、スリッパみたいな代物だ。
俺は今、そいつを履いている。
薄汚れたそいつを。
そして、
千円分の商品券は、昼飯になった。
歯ブラシも。
歯磨き粉も。
パンツも。
靴下も。
髭剃りの替刃も。
すべて自分で買っている。
買ってくれといっても、金は渡されないからだ。
ジーンズも。
チノパンも。
膝が破れているものばかりで、履けるものは、ほんの僅かだった。(二本か、三本)
Tシャツも。
首のところが伸びて、色あせているものしかなかった。
当然、僅かな小遣いで、ジーンズやチノを買えるはずも無かった。
(Tシャツは買えるかもしれない。酒を我慢すれば)
そして、その日。
小遣いはないと、アイツに言い渡された。
あんたはわたしのために、何かしようという気はないわけ!
事あるごとに、あいつは喚いた。
冗談じゃない!
笑わせるな!
俺から搾取することしか出来ないアイツに、何を与えればいい?
お前が搾り取るだけ搾り取ったのだ。
俺には、一円たりとも、銭は無い。
もうこれ以上、搾り取れないぜ。
朝顔だって、水をやらなければ、花を咲かせないだろう。
ナスだって。
きゅうりだって。
かぼちゃだって。
薩摩芋だって。
みんなそうだ。
それが自然の摂理なのだ。
あいつのやっていることは、
水すら与えず、かぼちゃの苗に、早く実をつけやがれ!と怒鳴っているようなものだった。
土台無理な話だ。
俺はもう、
枯れているのだから。
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