痛み〜現実と夢想〜そして永遠に
目覚めるのと同時に、腰に激痛が走った。
息が詰まる。
声すら上げられなかった。
幸いにも、その日はバイトも仕事も休みだった。
呼吸した。
叫び声をあげそうになるのを、また息を堪える事で、なんとかやり過ごす。
痛みが少しずつ、和らいでいった。
試しに、布団から這い出そうとした。
また、激痛に襲われた。
俺は起き上がれなかった。
うつぶせの姿勢が一番楽なように思えた。
そのままの姿勢で、しばらくはじっとしていた。
畳に視線を落としていると、小さなゴミが動いていた。
よく見ると、それはダニだった。
激痛がやがて、鈍痛に変わった。
俺はそのまま、眠りに落ちていった。
夢を見ていた。
皺だらけの白人夫妻が眼の前にいた。
髪は白髪で、夫の方は、顔の皺とは対照的なくらい、綺麗な青い瞳をしていた。
夫人は眼鏡をかけていた。
眼の光はよくわからない。
豪奢な家だった。
アイランド式キッチンの上は、大理石だった。
俺はその上にパンを並べ、老夫妻の為に、食事の支度をしているようだった。
どうやら俺は、この老夫婦の息子らしい。
俺は申し分ない、豊かな暮らしを送っているようだった。
部屋の壁は白で、窓の外に広がる景色は、やはり豪奢な家並みが並んでいる。
ハリウッド映画でよくみる光景、そのままだった。
夫人の方が急に、俺に近付いて来た。
俺は腹に熱さを感じた。
何故?
夫人が俺の腹に、ナイフを突き立てていた。
そうか。
夫人、いや、俺の母親は、痴呆症なのだ。
だから、仕方のない事なのだった。
老夫、いや、俺の父親に視線を向けると、特に驚いた様子はなく、ただ微笑みを返してくるだけだった。
父親は、そのまま静かに語り始めた。
「息子よ。その傷ではおまえは死なない」
「父さん。母さんのしたことは誰にも言わないから安心して」
父親は、大きく頭を振った。
「お前には、死んで貰わなくてはならんのだ。然るべき人間にお前の殺害は依頼してある。そして、その事実は永遠に闇の中だ」
俺は愕然としながら、殺される理由を考えていた。
理由などわかりはしなかった。
とにかく、逃げよう。
俺は玄関へ走ろうとした。
背後の声で、俺は足を止めた。
「日本人の養子のお前が、何を言ったところで、この国の人間がまともに請け合うことなど、ありはしない」
俺は確実に抹殺されるだろう。
そう確信したのと同時に、俺は眼を醒ました。
現実。リアルワールド。
壁の向こうで、人の気配がした。
俺の娘の母親。
夢の中で、俺の死を切望する奴らに逢った。
そして、現実の世界でも、俺を憎み、いっそのこと死んでしまえばいいと、願っている奴がいる。
そう。
壁一枚隔てた、その向こうに。
息が詰まる。
声すら上げられなかった。
幸いにも、その日はバイトも仕事も休みだった。
呼吸した。
叫び声をあげそうになるのを、また息を堪える事で、なんとかやり過ごす。
痛みが少しずつ、和らいでいった。
試しに、布団から這い出そうとした。
また、激痛に襲われた。
俺は起き上がれなかった。
うつぶせの姿勢が一番楽なように思えた。
そのままの姿勢で、しばらくはじっとしていた。
畳に視線を落としていると、小さなゴミが動いていた。
よく見ると、それはダニだった。
激痛がやがて、鈍痛に変わった。
俺はそのまま、眠りに落ちていった。
夢を見ていた。
皺だらけの白人夫妻が眼の前にいた。
髪は白髪で、夫の方は、顔の皺とは対照的なくらい、綺麗な青い瞳をしていた。
夫人は眼鏡をかけていた。
眼の光はよくわからない。
豪奢な家だった。
アイランド式キッチンの上は、大理石だった。
俺はその上にパンを並べ、老夫妻の為に、食事の支度をしているようだった。
どうやら俺は、この老夫婦の息子らしい。
俺は申し分ない、豊かな暮らしを送っているようだった。
部屋の壁は白で、窓の外に広がる景色は、やはり豪奢な家並みが並んでいる。
ハリウッド映画でよくみる光景、そのままだった。
夫人の方が急に、俺に近付いて来た。
俺は腹に熱さを感じた。
何故?
夫人が俺の腹に、ナイフを突き立てていた。
そうか。
夫人、いや、俺の母親は、痴呆症なのだ。
だから、仕方のない事なのだった。
老夫、いや、俺の父親に視線を向けると、特に驚いた様子はなく、ただ微笑みを返してくるだけだった。
父親は、そのまま静かに語り始めた。
「息子よ。その傷ではおまえは死なない」
「父さん。母さんのしたことは誰にも言わないから安心して」
父親は、大きく頭を振った。
「お前には、死んで貰わなくてはならんのだ。然るべき人間にお前の殺害は依頼してある。そして、その事実は永遠に闇の中だ」
俺は愕然としながら、殺される理由を考えていた。
理由などわかりはしなかった。
とにかく、逃げよう。
俺は玄関へ走ろうとした。
背後の声で、俺は足を止めた。
「日本人の養子のお前が、何を言ったところで、この国の人間がまともに請け合うことなど、ありはしない」
俺は確実に抹殺されるだろう。
そう確信したのと同時に、俺は眼を醒ました。
現実。リアルワールド。
壁の向こうで、人の気配がした。
俺の娘の母親。
夢の中で、俺の死を切望する奴らに逢った。
そして、現実の世界でも、俺を憎み、いっそのこと死んでしまえばいいと、願っている奴がいる。
そう。
壁一枚隔てた、その向こうに。