詩 「朝焼け」 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

詩 「朝焼け」

日々を生きる。~妻よ。おまえはいったい何を望んでいるのか。-20090816.jpg
彼女はいつも、誰もいない病院の非常階段から、外を眺めてた。

心地よい風が吹き、かすかに金木犀が香った。

ある晩、彼女はこっそりと、病室を抜け出し、彼の元へ行った。

やあ。

彼はそれ以上何も言わなかった。

透けるように白い肌と、幾分やつれたその表情は、

彼女の闘いの凄まじさを、物語っていた。

彼女は家族もなく、ひとりぼっちだった。

海までドライブしましょうと、彼女は微笑んだ。

助手席で眼を閉じた彼女は、まるで死んでしまったかのようだった。

ラジオから流れる、タイムアフタータイム。

それから、チェインジザワールド。

彼女の頬をつたって、流れ落ちたもの。

彼は彼女にこう言った。

朝焼けだよ。

彼女は答えない。

彼は彼女の頬に、そっと触れた。

彼の手に、彼女の手が重なる。

そのまま導かれた手が、彼女の唇に触れた。

唇の動き。

あなたが好きよ、と声もなく、唇が語った。