男子弁当(笑) | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

男子弁当(笑)

近頃、やたらとガキだった頃を思い出す。

父と母と、過ごした日々。

かけがえのない日々だったはずだが、その当時は、それが当たり前だと思っていた。

高校生の時、母は毎日弁当を作ってくれた。

おかずは何品も入っていたし、デザートまで付いていた。

飯は必ず、海苔が二段にひきのべられていた。


その日。

目覚めると、俺の娘の母親は、どこかに出かけていた。

朝飯を喰おうと思い、キッチンへ行くと、飯は炊いてあったが、おかずは何もなかった。

卵すらなかった。

俺は朝飯を諦め、弁当を作ることにした。

カップラーメンはおろか、ベビースターラーメンすら、買う金がなかったからだ。


冷凍の肉と、キャベツに玉ねぎ。

みりんと醤油と酒に、味噌を加えたものを、野菜と肉にまぶし、それを炒めた。

味付けは適当だったが、みりんと醤油と酒、それに砂糖を加えれば、それなりの味になることを俺は知っていた。

今回は、砂糖のかわりに味噌を入れてみた。

ただの思い付きだった。


炒めあわせて完成だったが、そのとき棚に並んでいる、辛味噌の瓶に眼が止まった。

最後に、スプーンで掬った辛味噌を入れ、混ぜた。


飯は、母の弁当を真似て、海苔を二段にした。

弁当箱に半分ほど、飯を入れ、醤油を塗った海苔をひく。

更にその上に飯を載せ、また海苔だった。

母は、これ以上の手間をかけて、毎朝、俺のために弁当を作っていたのだ。

なんということだ。

俺には、母の弁当は再現出来ないだろう。

技術的な部分は無論、自分に対しての弁当に、多くの手間を掛けようとは思えないからだ。


ちまたでは、やれ男子弁当だ、草食系男子だなどと言っているが、まったくもって、失笑ものだ。

そんなことを、マスコミに決め付けられたくはないし、それに踊らされ、

弁当でも作ってみようかなどと、考える男がいるならば、そいつはどうしようもない奴に違いない。


その日の、昼休み。

俺は薄汚いバックヤードで、男子弁当ならぬオヤジ弁当を食った。


思った通り、自分で作った弁当は、美味くも不味くもなかった。

ただ、腹が膨れる。


それだけだった。