詩 「父も母も」
虫の鳴き声。
遠くに車の音。
なんだが寂しい心持になりながら。
ひとり、電球二つの薄暗い部屋で酒を飲んだ。
記憶はスパイラルを描き、暗く冷たい過去へと降って行く。
父の遺影。
母の遺影。
僕を睨み付け、僕を責め続ける。
あの時、父はこう言った。
「お前は本当に、冷たいやつだな」
父もきっとわかっていたはずだ。
それはお互い様で、実はそれなりに、やさしいところもあったのだ。
母が酒に酔って泣いている時、僕はそれが許せなくて、
母を罵った。
父と一緒にいると、どうしようなないほど苛立ち、
しかし、決してそれをぶつけることはなかった。
父も僕に苛立ち、それでも、何も言わなかった。
父も母も。
息を引き取るとき、僕に何も言ってはくれなかった。
二人とも、僕がベットを離れた僅かな時間に、息を引き取った。
きっと、二人とも。
こんな、どうしようもない息子に、看取られることなど、絶えられなかったに違いない。
僕はとんでもない、親不孝者だった。
これ以上ないというくらいの。
「父さん、母さん。おやすみ」
僕が遺影に声をかけると、部屋の電球が突然切れた。
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