詩 「夏の終わり」
「8月いっぱいでこの町を発つわ。だからその前にツーリングへ行かない?」
女友達のヒロからだった。
僕たちは近くの山へ
バイクを飛ばした。
林道。
砂埃が舞い、砕石にハンドルをとられながら、
僕らは山を駆け上がる。
風の音と、
時々メットを叩く、小枝が僕たちを歓迎していた。
山頂付近で、僕たちはバイクを降り、
隣り合わせに座り、膝を抱えた。
「高校って、最悪だったわ。わたしはいじめられないように、
ただひたすら、目立たないことに心を砕いていたのよ」
長い髪が風に揺れていた。
悲しみを湛えた瞳は、眼下に広がる町並みに向いている。
せみの鳴き声が耳障りで、僕は一度、髪を掻きあげた。
夏の日差しが、彼女の頬の微毛を、黄金色に輝かせていた。
濡れた唇に、僕は心を奪われていた。
僕はヒロのことが好きだった。
あの時、
彼女は、僕のことをどう思っていたのだろうか?
あの時、
僕は、好き、という気持ちを伝えるべきだったのだろうか?
時が過ぎ
僕はただ、日々を生きる。
あの頃抱いていたものなど、何も残ってはいないのに、今も変わらないと思い込み、
ただの幻を、胸に秘め、
自分をごまかし、日々を生きている。
そう
僕は
日々を生きる。
どうしようもないほどの、屈託の中で。
↑いつもクリックありがとうございます。
