闇の中で~蠢くもの
焚き火を眺めていた。
時々、棒で突っついたりして世話をする。
闇の中でゆれる炎。
俺は時々、酒をなめた。
焚き火は、いつまで眺めていても、飽きることがなかった。
空を見上げると、大気が澄んでいるせいなのか、恐ろしいくらいの星で埋め尽くされている。
本を読んでやろうという気すら、起きなかった。
娘も、その母親も、すでにテントの中だった。
この場所に来るまでに、散々な目にあった。
俺の娘の母親はずっと不機嫌で、金がない!金がない!と車中で連呼し続けた。
すべてを投げ出し、路肩に車をとめ、降りようとも考えた。
しかし、それは出来なかった。
俺は我慢するしかなかった。
はっとして、焚き火から視線を外し、闇の方を見やる。
突然、闇の中に白いものが現れた。
少しは離れたところから、こちらを見ている。
猫だった。
この闇の中にいるのは、俺と猫だけでお互いに睨み合うというかっこうだった。
「こっちへおいで」
俺は猫に語りかけてみた。
猾介な視線だったが、おれはその猫が嫌いではなかった。
「お前はひとりかい?」
猫の首が微かに、傾げたように見えた。
その直後、猫は音もなく闇の中へ消えてしまった。
猫はこんな夜中に、何をしていたのだろうか?
帰る巣はあるのだろうか?
家族は?
子は?
テントの周りも、焚き火以外は、静寂が辺りを支配している。
明日は朝早く起きて、娘と海を見に行こう。
俺はそんなことを考え、焚き火を離れ、テントへ向かった。
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