闇の中で~死んでいったもの | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

闇の中で~死んでいったもの

闇。


開け放たれた窓から、微かに青白い光が差し込んでいる。



俺は闇の中で、酒を飲んでいた。


ただ、酔いたかった。


3杯目の水割りを飲む頃には、眼が闇になれ、


カーテンが風で揺れているのがはっきりとわかった。



ひきっぱなしの布団。


脱ぎ捨てられた服の山。


物干しに、つり下げられた洗濯物。



着るものがなくなると、夜中に洗い、部屋の中に干す。


朝、生乾きの服を、そのまま着て会社へ行った。



今夜も、なんとか酔えそうだとおもっていると、車の音が聞こえた。



娘と、その母親が帰宅したのだ。



居間の電気を付け、俺は窓越しに、様子をうかがった。


どうやら、俺に気付いたようで、娘の母親がいつもの決まり文句を口にする。



「とっても、疲れたから!」



家に上がると、俺の娘の母親は、娘に飯を作るようだった。


乱暴に冷蔵庫を開け閉めし、食器棚も同じように音を立てている。


俺は扉越しに、その様子を見つめていた。


俺の視線を感じていることは、明らかだった。


それと知って、俺の娘の母親は、信じられない行動に出た。



皿を2枚取り出すと、それをシンクに叩き付けて割ってしまった。


俺は部屋に戻り、扉を閉めた。


残りの水割りを、一気に飲み干す。


もう一杯飲みたかったが、キッチンへは行けなかった。


仕方なく、ストレートをちびちびとやって、やり過ごそうと考えた。


どうやってか(皿をぶち割ってしまったのに)娘の食事を作ったようだった。


俺の娘の母親が、居間に行っている間に、キッチンへ行きもう一杯、水割りを作った。


しばらくの間、居間の様子をうかがっていた。


娘が寝室へ行く。


それから、足音がこちらへ近づいてきた。


扉の向こう側で、それは止まった。


怒鳴り声で、扉が振動する。



「あれは母が買ってくれた発泡酒よ!あんたの金で買った酒なんて一つもないから!!」



何故、皿が2枚も割られなければならなかったか。


俺はそのとき理解した。



水割りを飲む前に、冷蔵庫の中にあった発泡酒を発見し、飲んでしまったのだった。



水割りを飲み干す。


それでも、酔いは吹っ飛んでしまったままだ。



不意に雨音が聞こえた。



徐々に大きくなってくる。



数分か。


それとも、数十分か。



雨音に耳を傾けた後、俺は布団へ横になった。