口を開けば、銭!銭!銭! | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

口を開けば、銭!銭!銭!

睡魔と戦いながら、バイトから帰宅すると、俺の娘の母親の車があった。

俺は気分が悪くなった。

吐き気がした。

車を停めたまま、家に上がらずに三十分間寝た。

一秒でも長く、俺の娘の母親と、顔を合わせたくはなかったからだ。



車から這い出し、家に上がり、髭を当たったり歯を磨いたりしているところへ、俺の娘の母親がやってくる。

「バイト代の残りはどうなってるの!」

二週間ぶりに顔を合わせて、最初に口をついて出てきた言葉がこれだった。

両手に請求書の束もち、俺の前に突き出してくる。

今月は、バイト料から七千円抜いた。

残りは全て渡してあった。

俺はその七千円も、外で飯を食ったりして、全て使い果たしていた。

「残りのお金、無いわけ!」

俺はかまわず、身支度を続けた。

「あんたこれから先、一生このままの生活でいいわけ!」

俺は答えなかった。

こんな生活、一生続くはずは無かった。

俺の娘の母親は、新たな費えが確保出来さえすれば、俺の元を去るのは明白だった。

「給与明細出しなさいよ!」

俺は、娘の母親の横をすり抜けて、自室へ行った。

背後から、言葉が追ってくる。

「こうやって、意志の疎通もとれない生活で、あんたはいいわけ!」

相手の言っている事を、一方的に全て受け入れる事が、意志の疎通だとは思えなかった。

もう、どうでもよかった。

仕事に行くために着替えていると、また、なにやら言っているのだった。

「あんたがパソコンばかりやっているの、わたしは納得出来ないから!」

俺は、本当に吐きたくなってきた。

部屋を出ると、そこには俺の娘の母親が立ちふさがっていた。

「あんた、給与明細出しなさいよ!」

「ないね」

「それなら、通帳見せなさいよ!」

もうたくさんだった。

いい加減、面倒くさくなってきた。

「わかった」

そう言って、俺の娘の母親の横をすり抜け、玄関へ向かった。

もう言葉は追ってこなかった。


とにかく、馬鹿げている。

俺も、俺の娘の母親も、爆弾か何かで、一瞬にして吹き飛んでしまった方がましかもしれない。

少なくとも、こんな馬鹿げた事に、無駄な時間とエネルギーを使うことはないだろうから。


車に乗り込む。

睡魔は無かった。

そして吐き気は、益々酷くなっていく。


もう、終わりは近い。

俺の娘の母親の、行動や言動に、はっきりとそれを感じていた。


俺は自分自身に言い聞かせた。


もう少しの辛抱だ、と。