送り盆~夜の墓場での出来事
目を覚ましたら、午後六時をまわっていた。
まいったな。
まったくもって、どうしようもない。
今から家を出たとしても、どうやったって、夜になるじゃないか。
墓場まで、車を飛ばして一時間以上かかるのだ。
今はまだ、外は明るい。
今日はお盆。
送り盆だった。
その日の早朝、俺はいつも通りバイトへ行った。
いつも通りの睡魔。
帰り道、ハンバーガーを二つ買って、家に着く前に喰ってしまった。
送り盆のために、会社は休んだ。
時間がたっぷりあったが、何かをしようという気分ではなかった。
送り盆で墓場へ行くのは午後で、通常は夕方だった。
俺は少しだけ悩み、決断した。
ワインと焼酎を、一気に飲み干し、布団に倒れ込んだのだった。
墓場へ着いたときには、辺りはすっかり闇に包まれていた。
提灯へ蝋燭を刺し、火を灯す。
花と水を左腕で抱え、提灯をぶら下げ、
右手でライトを点灯させ握った。
提灯だけでは暗く、帰り道、提灯は消すためだ。
闇。
静寂。
空気は冷えていて、風が心地よかった。
俺は墓場の途中で立ち止まり、空を見上げた。
星がきれいだった。
何故、夜の墓場で、夜空を眺めてやろうという気分になったのか。
墓場にいるというのに、不思議と気分が良かった。
いや、墓場にいるから気分がいいのだろうか。
もしこの場に、誰かが来たのならば、きっと腰を抜かすに違いない。
墓場の真ん中で、提灯をぶら下げ、星空を見上げて微動だにしない、一人の男。
口元に微笑みをうかべて。
父と母の墓石に到着し、作業のため、ライトを置いたとき、突如としてが光が消えた。
いやな切れ方だった。
明らかに、球が切れた感じで、一瞬、強く光ったのだ。
よりによって、夜の墓場でライトが切れるなんて。
なんてことだ。
提灯の明かりだけで作業するしかなかった。
提灯から蝋燭をむき出しにすると、風で消えそうになった。
提灯を片手でぶら下げたまま、少し萎れた花を処分して新しい花を刺し、水をやった。
花を捨てるとき、木が生い茂るゴミ捨て場まで、歩かねばならなかった。
蝋燭が突如として消えないことを、祈った。
後は、墓前で手を合わせて帰るだけだった。
しかし、提灯を握ったまま手を合わせることは出来ない。
提灯を消す以外になかった。
何かの光の乱反射なのか、星明かりなのかわからなかったが、完全な闇ではなかった。
蝋燭を消しても、目が慣れれば、少しは見えるだろう。
そう思ったとき、俺は何故かわからないが、ライトが生き返るのではないかと思った。
通常ならば、そんなこと、思い至らないだろう。
すでに、球は切れているのだ。
墓場でのかすかな恐怖がそうさせたのか?
俺はライトを弄ってみた。
そのとき、俺は戦慄した。
ライトは一瞬強く光り、元通り点灯した。
安心して、蝋燭を消して、俺は墓地を後にした。
単なるライトの接触不良だったのか?
それとも?
俺は幽霊とか霊魂とか、そういったものには懐疑的だった。
それでいて、すでに他界した両親の墓石の前で、手を合わせたりしている。
しかし、これだけは別だった。
かの大槻教授だって、墓参りには行くだろう。
父と母の魂が、この世でもあの世でもいいから、今も生きている。
そう思いたかった。
もう一度立ち止まり、空を見上げた。
明滅する星。
天の川だろうか?
よく見ると、薄く帯状に伸びた、薄雲だった。
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