詩 「君とあいつ」
痛めつけられ、悶絶しながら、俺は君のことを想った。
君はどこか下品で、しかし、俺を心底愛してくれた。
俺の前で、平気で屁はするし、盛大な音を立てて鼻をかむ。
あいつは君と比べると、いくらかは上品で、見た目も少しだけ美しかった。
俺はなぜ、君を捨てて、あいつを選んだのだろう。
君はいつも車を飛ばし、長距離運転で俺に会いに来てくれた。
俺が約束の時間に遅れても、君は笑って短いキスをし、それで終わりだった。
あいつは、時間に厳しかった。
俺が約束の時間に十分遅れたら、その後八時間以上押し黙り、視線すら合わせなかった。
俺はなぜ、君を捨てて、あいつを選んだのだろう。
君は子供が嫌いで、飯も作れなかった。
その代わり、アウトドアが好きで、海へ行ったり、山でスキーなんかを一緒にやった。
あいつは料理が得意だった。
家に来ると、いつも飯を作ってくれたが、外へ出る事を嫌がった。
日焼けを気にして、いつも腕にクリームを塗ったっくっていた。
俺は、きみの手放しの愛が信じられなかった。
こんな俺を、ここまで愛してくれるわけがないと、
心の中で疑っていた。
そして
あいつは、俺のことなんか愛してはいなかった。
むしろ、それが自然なことのように思えた。
蝉の鳴き声。
子供たちの遊ぶ声。
窒息しそうな部屋の中。
俺は死にかけていた。
悪意と憤激と苛立ちの気配を感じた。
俺は身動きがとれない。
あいつがとどめを刺しにやってくる。
鈍く光ったナイフが、俺の頸を冷たくなでる。
あいつの憎悪に満ちた視線が俺を殺そうとしている。
薄れ逝く意識の中、俺は思った。
俺はなぜ、君を捨てて、あいつを選んだのだろう。
最後の最後に、謎が解けた。
しかし
それで終わりだった。