斜陽
またか、と思った。
俺の古い友だち。
偏頭痛がやってきた。
右眼穿の奥が抉られるような痛みだった。
昨晩は、無駄な時間を節約し、なんと!五時間近く寝ることが出来た。
しかし、頭痛は消えなかった。
バイトを終えて、仕事に出掛けた。
駐車場に着いて、俺は車の中で十五分寝た。
それから、何とか仕事をこなしているうちに、昼になった。
抉るような痛みは、何かで右顔面を押さえつけられるような鈍痛にかわっていた。
痛みで仮眠をとる気分にもなれず、俺は本を読む事にした。
バッグの中のハードカバーは、とっくに読み終わっていた。
図書館で借りたやつだ。
ボロバッグの中をもう一度よく見ると、一冊の文庫本が奥に埋まっていた。
太宰治の斜陽だった。
なぜ、こんなものを?
ページをめくると、カバーの端っこに、頬杖をついて、恐ろしく陰鬱な表情の、作者の写真が目に入ってきた。
その顔は、どう見ても、死にたがっていた。
読み始めた。
何ページ位まで、読み進んだのか?
いつのまにやら。
俺はデスクに突っ伏したまま、眠っていた。
目が醒めて時計に目をやると、休み時間は残り五分を切っていた。
立ち上がり、鏡に写る自分の面を見た。
右目が、偏頭痛のせいだろうか、垂れ下がっている。
太宰治に負けず劣らず、俺の面も、陰惨極まりなかった。
それでも……
俺はまだ、死にたがってはいなかった。
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