あんた、だれ?
朝起きると、ひどく静かな台所に立ち、飯を食った。
飯を食い尽くしたので、米を磨ぎ、釜へ放り込んだ。
流れるような作業はほとんど、オートマチックだった。
そこでふと疑問が生じた。
誰のために、米を磨いだのか?
窓から日の光が差し込み、全てのものが白い膜を張って見えた。
俺は、何をしている?
俺は思い出した。
バイトの面接に行くのだ。
2件面接を受け、どちらかの仕事を始めるつもりだった。
なぜだろう。
世界が現実感を失っていた。
台所に放置されたワイン。
昨晩洗った皿。
塩。砂糖。パン粉。
不可思議な高揚感があった。
すべてがうまくいっているように思えて、叫びだしたいくらいだった。
俺は狂っているのか?
リビングにかすかな人の気配を感じた。
引き戸を開けると、女が座っていた。
きれいな顔をしている。
そこで、以前からこの女を知っていることがわかった。
はじめてあったときよりも、幾分太ったようにも見えたが、それでも、美しく知的だった。
あんた、どこの誰?
現実から遊離した意識を働かせ、俺は考えた。
粒子となって四散した記憶が、一気に脳味噌になだれ込み、俺はすべてを理解した。
目の前の女は、
俺の子供の母親だった。
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