バイトの面接
ある日の朝。
仕事が始まっても、この給与ではやっていけない。
妻は言い、俺に求人広告を手渡した。
俺は一人になったときに、広告を見て電話をした。
若い女が出た。
応対がなっていなかったが、我慢強く受け答えして、指定された面接日をノートにメモした。
数日後、事務所へ行くと、寝ぼけたような若者が俺を出迎えた。
全身防護服のような白い衣装をまとっていて、目だけが覗いている。
ここで待ってくれと案内された場所は、食堂だった。
壁には新入社員の写真が、各営業所ごとに張り出され、意気込みなどがその脇に書き上げられていた。
食堂には、俺以外に老人が一人座っていた。
すぐに面接官が、俺たち二人を呼びに食堂に入ってきた。
老人と二人並んで座った。
俺は一応スーツを着ていたが、老人はジーンズにジャンパー姿だった。
俺たち二人と、テーブルを挟んで、神経質そうな痩せた白髪交じりの男が座っている。
それでも、誠実そうな男に見えた。
履歴書が二枚、テーブルの上に並んでいた。
老人の履歴書も、よく見えた。
盗み見ると、食い物関係の職歴が並んでいた。
俺より適任かもしれないと思いながら、俺は背筋を伸ばして目だけ動かした。
面接官は、老人から話しかけた。
話の内容もまる聞こえだった。
老人の年齢は、定年まであと何ヶ月もなく、採用の可能性は無いと、遠回しに言っていた。
老人は退出間際に、必死でやる気をアピールし部屋を出た。
俺の番だった。
「こういう仕事は、平気ですか」
面接官は言った。
食い物を調理する人間とそれを仕分けする人間。仕事の種類はそれだけだった。
俺は何故か、調理する人間だった。
「もちろんです」
「女性が9割の職場なんですが」
面接官の言葉。
いやな予感がした。
飯を作る仕事ならば、女が向いているということなのか。
おばちゃんが九人。その中に俺が一人。
想像すると、何とも不自然ではあった。
「家でも料理は作りますし、そういった仕事はとても好きなんです」
帰り際、俺は言わなくてもいいことを言っていた。
しかし、嘘ではなかった。
面接官は、合否の連絡日を俺に告げ、面接を終了した。
食品工場の周りも、工場だらけだった。
そのうちの一つは、周りに桜の木を植えていた。
満開を少し過ぎてしまったのか、道路際に花びらが溜まっていた。
側道に車を駐めて、俺は外に出た。
老人夫婦が車でやってきて、工場の反対側の崖を降りていった。
老人は鍬を持っていた。
タケノコでも不法に掘り起こす気なのかもしれない。
老婆の方は車に乗ったままだった。
合否連絡の日。
スーパーでパンを買っているときに、電話があったようだ。
留守電にメッセージが吹き込まれていた。
「今回はまことに残念ながら…」
俺は携帯のボタンを操作して、メッセージを削除した。
一度家に戻り、求人広告を探した。
もう一つ、めぼしい仕事が載っていたからだ。
不思議なことに、家中どこを探しても、求人広告は見あたらなかった。
何処へ行ってしまったのか。
ハローワーク。
頭の中に、言葉が湧き上がって、消えた。
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