くそったれ、就活時代2
職安。
窓口でカードを提出し、番号蓋を受け取った。受け付け完了だ。
そのまま所内を見渡し、空いている席をみつけ座った。
座った途端に、酒の臭いがした。
隣をちらりと覗くと、無精ひげの男と小太りの男が談笑していた。
NCだ、汎用機だなどと言っている。
お互いに求人票を見せ合って、いいだ悪いだと言い合っていた。
どうやら、無精ひげの方が呑んでいるようだった。
ろれつが回っていない。
俺は思わず、口元を歪めた。
呑みたくなるよな。そのきもちわかるぜ。
驚いたことに、朝一番で駆けつけたにもかかわらず、相談まで2時間も待たされたのだった。
俺の担当職員は、目元が涼しげで品のある初老の女性だった。
いろいろと話しているうちに、何故かそのおばさんに説教をされるはめになった。
「自分を大切にしないとだめですよ」
職など選んではいられない。
とにかく働かないといけない。
そんなことを言ったためだろうか。
俺は彼女の話を素直に聞きながら、自分自身を振り返っていた。
夕方帰宅すると、空腹に耐えられずに、味噌とマヨネーズを振りかけ飯を二杯食った。
妻娘の姿はなく、猫と二人だけだ。
食い終わって、猫の頭を撫でているとき、ふと妻の言動を思い出し、怒りがこみ上げてきた。
「くそったれ!なんでこうなんだよ」
金が無くて、履歴書を送ることが出来ない。それが忌々しかった。
それ以外にも、思い出し始めるときりがなかった。
俺の食器は決して洗わないくせに、妻の食器を洗わないと文句を言う。
洗濯物も、同じだった。
何で自分の物だけしか洗わないわけ。
「当たり前じゃないか。お前がそうだからなんだよ!くそったれが」
くそったれ。
キチガイやろうめ。
一人、アホのように喚いていると、猫も呆れて持ち上げていた頭を、前足の上に乗せて眼を閉じた。
それでも怒りは消えるどころか、増幅していった。
妻と娘が帰宅した。
思った通り、妻は俺を徹底的に無視した。
「今日は疲れたから、早く寝よう」
娘に話しかけている。
話しながら、思いっきり襖を閉めて、でかい音を立てた。
もうたくさんだった。
俺はそのまま荷物をつかんで、踵を返す。
叫び声を上げようと思ったそのとき、娘と眼があった。
「いったほうがいいよ」
何故か娘がそう言った。
玄関に出て初めて声を上げた。
「くそったれ!いい加減にしろよな」
しまったと思っても、既に遅かった。
近所の人に、俺の怒号が聞かれてしまったかもしれない。
まあ、いいか。
娘の前で、冷静でいられた。
それだけでよいではないか。
仕方なく車に乗り込んだ。
さて、何処に行こうか。
しばし考え、俺はスーパーの駐車場を目指して車を走らせた。
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