図書館の女
夕食の時間には、帰りたくなかった。
図書館によって、帰宅する。
そうすることで、妻は食事を済ませ、風呂に入る時間になるのだった。
一分、一秒でも、一緒にいたくない。顔を合わせたくなかった。
本は自分で持参したものを読む。
座る場所がないので、ロビーの一角にあるソファーに座った。
向かいの席に、女が座っている。
憮然とした表情に眼鏡。化粧もしていなかった。
それでも、20代くらいのように見えた。
何か資料のようなものを読んでいた。
読みながら、弁当をひろげ、食い始めた。
時々、何か呟いている。
こんな時間に、こんな場所で弁当を食っている若い女。
俺は少なからず、興味を抱いてしまった。
つぶやき。
女の独り言だった。
何を言っているのかは聞き取れなかった。
変な女だ。
ただ、こんなところで一人時間をつぶすと言うところに、微かなシンパシーを感じてしまう。
ソファーに座っているのは、俺とその女だけだった。
つぶやきは俺に向けられているか。
ペットボトルの飲み物を、ぽこぽこと音を立てながら飲んでいる。
ちらりと、顔を盗み見る。
愛嬌のある顔をしてるが、どこか疲れが滲んでいた。
「まいったなあ」
今度はハッキリと女が言った。
その後のつぶやきは、何を言っているのか聞き取れなかった。
声をかけたいような、気分になっていた。
それでも、女の方に視線を向けることは出来なかった。
ひとしきり資料を読んでいたが、女はバックに資料を詰め込むと立ち上がり、図書館を出た。
俺はすぐには立ち上がらず、少し時間をおいて立ち上がった。
外に出て、駐車場を見回したが、女の姿はすでになかった。