醜悪な女 と 他人
文句。
それは必ず朝一番に、醜悪なものから吐き出される。
妻だ。
容姿が醜悪というわけではなかった。
その下に隠れたものが、どんなに蓋をしてもあふれ出してしまう。
そんな感じだった。
「窓を閉めたら、鍵を閉めてよね」
洗面所の窓が開け放ってあった。
それで、朝の冷気が耐えられなくて閉めた。
顔を洗ったりする僅かな時間だけなのだが、そんなことは、妻には関係なかった。
どうということもない、くだらない出来事も俺を攻撃する材料になってしまう。
金は渡されなくなった。
弁当も作ってくれなくなった。
見知らぬ家庭の一室に、寝泊まりをしているだけの、どこかの男。
他人。
一日一食。夕飯だけの暮らし。
飯が炊いていなければ、それも無しだった。
おかずはいつも余り物で、無ければ冷蔵庫の中のもので何か作った。
洗濯も自分でするので、実質一人暮らしと何ら変わらない。
それでも蔑まれ、疎まれるのだった。
妻は、いつも何かと比べ、そして、いかに自分の境遇が惨めかと、俺を責める。
比べるのは妻の友人で、社会的地位も経済的にも裕福で、我が家とは比較にならなかった。
責められるたびに、乞食か何かになったような気分に襲われる。
酷く惨めになり、無力感に苛まれる。
顔をしかめ、俺と視線も合わさずに、妻が横を通り過ぎていった。
そのとき俺ははっとした。
握り込んだ拳を、妻の顔面に叩き付ける場面が脳裏に浮かんだのだった。
拳。
開いた。
掌の白くなったところが徐々に赤くなっていった。
指先が、微かにふるえていた。