憤激とともに~正月
どうということはなく、一日が暮れようとしていた。
元日。
買い物と、公園、凧揚げ。
穏やかな一日といって良かった。
しかし、結局のところ、そうはならなかった。
夕食をとっているとき、いきなり妻の苦言が始まった。
俺は大人しく聞いていた。話を聞く義務があると思ったからだ。
話の内容は、執拗だった。
あらゆる事象を持ち出し、俺が人間の屑であるということを、証明しようとしていた。
反論は出来なかった。
妻の言っていることに、齟齬はなかったからだ。
それはそうだろう。生きていること自体、なにかしらの間違いや不手際はあるのだった。
延々と続く話を聞いているうちに、本当に自分は、どうしようもない人間なのだと思えきた。
もう死ぬしかない、かな。
心の中で呟いている自分に、俺は驚いた。
人の心など、簡単に打ち砕くことが出来る。
ハンニバルレクターが、監獄の中で、隣の牢屋の男を、言葉だけで自殺に追い込むという語りが、映画の中であったことを思い出した。
実際にそんなことが出来るのか疑わしかったが、可能であると今は思う。
手首を切る。
もしも、病院に担ぎ込まれて、一命を取りとめたら。
腱が切れて、手は使い物にならなくなるだろう。
それでは、しょうがないではないか。
自殺を試みた。
それによって、妻に衝撃を与える。
それだけが目的で、死ぬ気などはなからないのだということを、知った。
ばかげた考えだった。
おかしな考えはすぐに消え、代わりに、暗い情念が俺を包んだ。
ナイフを取り出した。
思い切り投げつける。
鈍い音とともに、ソファーに突き立った。
それでも、憤激は消えなかった。