欠落
娘が泣いていた。
妻に、カキ氷を作ってくれと頼んだが、断られたためだった。
その理由は、明日からはまた、朝から晩まで忙しい。それを考えると憂鬱でカキ氷など作れないというものだった。
俺は冷蔵庫から氷を取り出し、機械に入れてハンドルを回した。
氷の削れるさまを見て、娘が喜ぶ。
すると不意に、娘が言った。
「おかあちゃんはいつもおとうちゃんのこと怒っているよね」
それを聞いた妻が、結婚前はこんなに怒ったりしなかったと怒鳴り始めた。
こんな自分にしたのは俺だ、常に自分をいらいらさせる俺がすべて悪い。
そんなことを、いろいろな例を上げ、しゃべり続けた。
自分の思い通りに行かないこの世の事象は、すべて人のせいにする。
これが妻だった。
結婚だって、自分で決めたはずじゃないか。
別れるか別れないか。決めたのはお前だろう。
喉もとまで出掛かった言葉を俺は飲み込んだ。
娘がそばにいたからだ。
もしも娘がそばにいなかったら、口汚く妻を罵ったかもしれない。
以前のように、何を言われても大して気持ちを乱されることはなかった。
妻の言動が、明らかに、道理に反している。
今は、それがわかった。
そして、鼻で笑っている自分に気づいた。
なにかが欠落していく。
どんなものかもわからぬまま、欠落していくということだけはっきりとわかった。