ひと言 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

ひと言

「どうせ家で遊んでるんだから、あんたが行ってきてよ」


児童手当の手続きだった。

仕事は午後からなので、何とか間に合いそうだった。

転居前の市役所へ行き、必要書類をもらわなければならなかった。

午前中一杯はかかりそうだ。

その他、二、三の雑用も妻から与えられている。

全ての仕事を片付けてから、俺はそのまま書類を携えて、市役所に直行した。


窓口で、思わず、溜息をついた。

なんと、保険証も必要だという。

家に戻った。


迂闊に、保険証を出せと言えば、多分罵りだった。

よくさがせ。そこにあるだろう。

妻の声が聞こえてきそうだった。


ひとしきり、棚を漁った。

ここに無ければ、もう、自力で捜し当てる事は、不可能だった。

他の収納スペースは、妻が個人的に使用している。

仕方がなかった。

俺は言った。

「保険証は何処」


怒鳴り声が返ってきた。

「頭にくるな本当に。あたしがそんなところに、保険証を置いておいた事あるわけ」

妻はぶつぶつと、俺を罵りながら、部屋へ消えた。

「なによ、あの言い方は。本当に、ムカつく」

妻は言いながら、俺の前に保険証を放りだした。



保険証は何処。

そのひと言が、俺を罵る口実だったのか。

仕舞いには、息をしただけで罵られるのか。


とにかく、ここに来て、気力がわかなかった。

喋る事すら、億劫なのだった。

どうしてしまったのか。

辛うじて、仕事は続けている。


このままでは仕事にまで、気力を失ってしまうのか。

そう思うと、俺は微かな恐怖を感じた。