ガス調理器具 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

ガス調理器具

朝、物音で目覚めた。

金属の触れ合う鈍い音で、それが何なのか、ほぼ見当がついた。

ガス台に付属する、グリルパンが嵌まらないのだろう。

昨日、妻がそれを外そうとして、悪戦苦闘していた。

その時、心の中に不意に残酷な気分が沸き上がり、俺は見てみぬ振りを決め込んだのだった。

引き抜こうとすると、貯めてある水がこぼれそうになる。

かと言って、傾けないと引っ掛かりを、外すことができない。

ガガタとひとしきり、でかい音を立ていた。

それは、俺に気付かせるためにやっているのだった。

そろそろ、助けてやろうと思い、妻の前に行くと、妻はその苛立ちを隠そうともせずに、俺にぶつけてきた。

本当にイラツク、と一言、言った。


ありがとう。


妻に、そんな言葉を期待する方が、間違いなのだった。




今朝も、昨日と同じく気付かない振りである。

物音の激しさが、妻の苛立ちを表していた。

怒号。

「あんたが外したんでしょ」

見てみると、前面にあるカバーまで外れていた。

何なのか。

思ったのと同時に、妻がそのカバーを、床に叩き付けてきた。

カバーを拾い上げる俺の背中に、妻の罵声。

「あんたは気が付かないかもしれないけど、これ、点滅してるから」

それは、コンロの電池交換を知らせるサインだった。


俺は電池を買うために、家を出た。