ホワイトソーススパゲッティー | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

ホワイトソーススパゲッティー



毎日がつらいという事を、妻に伝えた。

しかし、その事が、妻をますます怒らせることとなった。




妻は、実家で過ごす日が多くなっていたが、それでも、服などを取りに帰って来る。

そして、帰宅するなり怒号が鳴り響く。


「米の一粒も、炊いていないわけ」



そう言いながら、でかい物音を立てている。


「つらいとか言っているけれど、私だって朝から晩まで忙しくしているのよ」


そう言い残し、仕事に出かけた。



米を炊いて、風呂を洗った。

急に思いついて、俺は娘に言った。


「スパゲッティー、食べるか」


娘が、返事をする。

PCで、レシピを調べた。

ホワイトソースの作り方を、俺は知らなかった。

ほぼ、思っていたとおりの材料だったが、バターを加えると言うことまでは、考えが及ばなかった。

手早く作って、娘に食べさせた。

腹が減っていたのだろう、おいしいと言っておとなしく食べていた。

俺は、炊きあがった飯と、冷蔵庫にあるもので済ませた。

妻のために、ホワイトソーススパを皿に盛り、ラップして食卓に置いた。


娘が食べ終わり、風呂に入れる。

歯を磨かせて、寝室で寝かしつける。

娘が眠った後、俺は自室で休んだ。



何かをやろうと言う気が、どうしても起きなかった。

最近は、頭痛薬を手放せない状態が続いている。

箱の中を開け、残り数回分しかないタブレットをみて不安に駆られた。

これがなくなると、困る。

新たに買う金もないのだった。



いつの間にか眠ってしまった。

そして、怒鳴り声で目が覚めた。


「皿ぐらい、洗っておいてよ」



俺は寝ているふりをした。

何度も、同じことを怒鳴り続けている。

今度は、物音だった。

どかどかとでかい音を立てて、何度も部屋の前を行き来する。

扉を乱暴に閉め、でかい音を立てる。

それでも、何故か俺の部屋の扉を開ける事はしないのだった。

娘が物音で、起きてしまったようだ。

泣いている。

妻は寝室へ入り、娘と一緒に眠ったようだ。



夜中に目が覚めた。

廊下に出ると、俺の服が散乱していた。

風呂に入ったときに脱いだものだ。

キッチンへ行き、皿を洗おうと思った。


うずたかく積まれた皿はいつも洗っている。

ただ、夕食をとった後の皿は、洗わなかった。

麺を茹でた鍋を洗い、まな板を洗ったところで、もう限界だった。

娘と俺が使った皿が二枚、シンクに置かれている。


俺は、三角コーナーの生ゴミに視線をやった。

むなしさと、徒労感に全身を包まれたまま、しばらく立ち尽くしていた。



三角コーナーのゴミ箱には、俺が妻のために作ったホワイトスパゲッティーが、ラップと一緒に、手もつけられずに、投げ捨てられていた。