朝日
今朝は、何故か気分が良かった。
俺は伸縮門扉を開け、たまったゴミ袋を持って集積所へ向かった。
二週間分のゴミは、全部で三袋あった。
黄色い汁が滴り、嫌な臭いを発していた。
汁が足に付かないように、腕を開いて持つ。
運んでいる間、肩が痛くなり二度、袋を地面に置いて休んだ。
いつもなら、妻が出かけるまで布団の中でじっとしている。
妻と顔を合わせたくなかった。
顔を合わせると、罵られるからだ。
朝一番にそれは避けたかった。
一日が、台無しになったような気分になる。
このままでいいのか。
逃げ続けているだけじゃないのか。
そう思った時期も、あった。
そして、そんな思いもいつのまにか消え去った。
ゴミを出し終わり、ポストに突っ込まれた新聞を抜き取り、玄関に上がる。
娘がおもちゃで遊んでいた。
朝食は済ませたようだ。
寝巻きのままなので、着替えさせたかった。
それでも、俺が選んだものを娘に着せると妻は嫌がる。
服を選ぶのはいつも妻で、それを娘の近くに置く。
そしてこう言うのだった。
「○○ちゃん。これ着なさい」
俺はその言葉を受け、娘を着替えさせるのである。
時々、妻の顔を盗み見た。
無表情で、出かける準備をしている。
俺はほっとしていた。
機嫌が悪いときは、眉間に皺を寄せ、怒りとも苛立ちとも付かないため息を、絶えずついているのだった。
しばらく娘の相手をしていると、妻が俺のほうへ来て、苛立ったように言った。
「犬小屋洗ってよ」
俺は黙って庭に出て、犬小屋を洗った。
隅に溜まった抜け毛を箒で吐き出し、水で洗い流す。
一仕事終えると、俺は空を見上げた。
朝日が心地よかった。
寒い朝だったが、風もなく、じっとしていると暖かかった。
しばらく、庭を眺めていた。
鳥の鳴き声。
それに混じって、娘の声も微かに聞こえてくる。
車のセルが回る音。
エンジン音。
そろそろ妻が出かけるようだ。
エンジン音が、いつまでも、消えない。
まだ出かけないのか。
そう思っていると、妻がちょっとあわてた様子で俺のところに来た。
庭の片隅に座り込み、じっとしている俺の姿をみて、妻が言う。
「何やっているのよ」
それだけ言うと、車へ駈けて行った。
エンジン音。
徐々に、遠ざかっていった。