笑うとき
「ばーか」
帰宅して第一声がそれだった。
それでも、俺は微笑んでしまう。
愛らしくて、思わず抱きしめたくなった。
娘である。
妻が風呂に入れたらしく、薄着で家の中を駆け回っていた。
俺が近づくと、妻の方へ逃げてゆく。
トコトコと、小さな体を揺さぶるようにして走る姿に、俺はまた微笑んでいた。
妻が身支度をする。
俺と入れ替わりに、仕事だった。
「ままと、いく」
そう言って、娘が駄々をこねる。
「ママはお仕事だからね」
妻が言っていた。
娘は、玄関にいる妻にへばり付いて、離れようとしない。
俺は娘を抱いて、部屋へ戻った。
娘はママと言いながら、泣いていた。
泣き顔も、たまらなくいとおしい。
「にやにやしていないで、○○に服を着せてよ。風邪引いちゃうでしょ」
妻の怒鳴り声。
そのとき初めて、俺は笑っていたのだと気付いた。
俺は口を閉じ、娘に服を着せた。
玄関の閉まる音。
それを確認すると、俺はまた娘とじゃれ合った。
踊る娘。
それに合わせて、俺は適当に思いついた言葉を並べ、歌った。
娘がけらけらと笑う。
俺も笑っていた。