雨滴
「これ、持っていきなよ」
妻がタッパーに飯を詰めながら、穏やかに言った。
顔など見たく無い。
そんな思いで、目覚めた。
ところが、目の前にいる妻は何故か優しかった。
数日前に、かなりひどい事を言われた。
妻との間に、どうにもならないくらいの溝を、改めて思い知らされたのだった。
数日たった今も、それは黒い澱になって、俺の心の中に沈んでいた。
弁当を作ってくれたことは、単純にありがたかったが、それでも素直に喜べなかった。
ありがとうと短く言い、俺は家を出た。
途中、コンビニに寄って、昼食用の小銭で、味噌汁を買った。
雨が降っていた。
それでも、雲の間から光が漏れている。
雨滴が視界を滲ませるまで、少し時がかかった。
ワイパーはそのときだけ動かした。
スイッチ操作がほとんど必要で無くなった時、午後から晴れると、俺は確信した。