フラストレーション
「当たり前のようにいわないでよ。本当にお金無いから」
そう言って千円札を数枚、乱暴に突き出してくる。
同じ町内で葬式があった。
ほとんど、付き合いらしいものはなかったが、親父の葬儀の時に香典をもらっていたのだった。
以前、同じように葬式があった時も、かなり酷い事を言われた。
これからは自分ではらって。それが出来ないなら、今まで払った分は、別れる時に請求するから。
腹が煮えたが黙って堪えた。
今回も同じである。
もしかすると、甲斐性の無い自分に対して腹が立ったのかもしれなかった。
別々の場所で食事を済ませた。
妻と娘はちゃぶ台で、俺はテーブルだった。
汚れた食器を洗い、風呂を洗いに行こうとしたとき、何かがたたき付けられるような音がした。
「ちょっと、これも洗ってよ」
炊飯用の釜だった。
「今すぐに洗っておかないと、明日のご飯炊けないから」
そう言って、妻は出掛けていった。
米を研ぎ、炊飯器のタイマーをオンにして、娘を風呂に入れた。
娘は、風呂に入っている間、ママ、ママと言って泣き続けた。
いくらなだめても、泣き止まなかった。
苛々が頂点に達したとき、俺は娘に信じられない言葉を浴びせていた。
「そんなにママがいいなら、お父ちゃんはいなくなるから」
言った後、馬鹿な事を言ってしまったと後悔した。
まだ二歳で、大人の話す事を全て理解できない娘が、ぴたりと泣き止んだのである。
俺は咄嗟に、浴槽に浮かんだおもちゃを掴み上げ、娘に向かって、おどけてみせた。
娘が思わず、といった感じて微笑む。
もう一度、同じ事を大袈裟に繰り返す。
今度は、声を上げて娘は笑った。