目に見えない、何か
娘の顔が、暗がりの中で歪んだ。
直後、大声で泣きだした。
どうしたというのだ。
いつもとは、明らかに様子が違う。
腹でも壊したのではないか。
最初に思ったのがそれだった。
布団の上に、娘とふたり大の字になって寝た。
いつもこうして、娘の隣に横たわり、寝かしつけている。
どうした。何で泣いているの。
声をかけたが、しばらく泣き続けた。
体を軽く叩いたりして、なんとか宥めることが出来た。
やっと落ち着いてきた娘に、もう一度尋ねた。
「どうしたの」
娘は、網戸の方を指差して言った。
「なにか、いる」
網戸を見た。
何もいなかった。
両端に開かれたカーテンが、風で揺れているだけだ。
娘は、虫などを異常に怖がる。
蛾か何かが、網戸に留まっていたのかもしれないと思った。
「何がいたの」
そう聞いても、意味のわからないことをぼそぼそと言っているだけだった。
もう一度聞いてみた。
ゆっくりと、何がいたの、と。
娘は、小さな声でこう言った。
「おばけ、いた」
そんなもの、いやしない。
のど元まで出かかった言葉を、俺は飲み込んだ。
俺が見えないだけかもしれないと、ふと思ったからだ。