楽しかったころ~夏の思い出 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

楽しかったころ~夏の思い出

二人で公営プールに出かけた。

2年以上前の話である。

その夏も暑かった。

車の中で、エアコンを使っていても、窓から差し込む日差しが腕を焼いた。

いったん更衣室で別れ、先に着替えた俺はプールサイドで妻を待っていた。

しばらくして、妻が現れた。

妻は、中学生が着るような水着を着ていた。

50mが1つと、25メートルが2つ。

初めは、25メートルで遊んだ。

妻は泳ぎが下手だった。

俺は、基本から教えた。

先に立って、妻が泳いでくるところを、潜ってフォームを確認する。

俺のところまで泳いでくると、こっちらをみて微笑んだ。

俺は、力を抜いてとだけ言った。

細かいことをごちゃごちゃ言っても、わからないとも思った。

まだその段階ではなかった。

長水路の方が、空いていた。

二人でそちらに移動した。

背が届かないくらい、深い。

壁側で練習した。

足が届かなくても、壁につかまる事が出来る。

泳いでいるのは、俺たち以外、数人いるかいないかだった。



監視員からあまり眼の届かない、プールの隅でちょっと抱き合ってみた。

妻を見つめる。

甘えるように、上目遣いで俺を見つめ、少し笑った。

俺は、周りを見渡した。

監視員の視線が気になったからだ。

俺たちは、水の中に潜ってキスをした。

水中で見る妻の表情は、陸上で見るそれと少し違っていた。

何故か、ちょっと切ないように思えた。

先に息が続かなくなったのは妻の方だった。

俺はゆっくりと浮上して、妻の手をとった。

気が付くと、俺たちだけになっていた。

監視員が用具などを片付け始めている。

誰も泳いでいない水面は鏡のように照明を映し出していた。

俺たちは手を繋いで、そこを後にした。

プールの営業が終わった。


同時に、あの夏も終わった。