妻の温もり | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

妻の温もり

「なんでちゃんと仕舞わない訳。ホント嫌になる」

帰宅して、いきなり妻に怒鳴られた。



以前、複合機のインクが切れて、カートリッジを交換した。

それでも、少しインクが残っていて、予備のカートリッジと一緒に仕舞い込んでいたのだった。

妻がカートリッジを交換する際、インクが漏れていたらしい。


これを見てよ。

そう言い、インクで汚れた手を俺の目の前に翳している。

俺は黙るしかなかった。

捨てればよかったと、後悔した。

何故、仕舞い込んだのだろうかと考えても、そのときのことをよく思い出せなかった。

黙っている俺に対して、妻が口を開いた。



なるべく言わないようにしている、と。


それでも、俺が酷過ぎるから、こうして、色々と言ってしまうのだという。



嵐が来ていた。

外は雨は降っていて、それほど激しい降りではなかった。

深夜、最接近するという。

雨の中、庭に出て物を片付けた。

台風で物が吹き飛ばされて、車などに当たるとまずい事になる。

結局妻は、寝るまで機嫌が悪かった。




寝室で雨音を聞きているうちに、いつの間にか寝てしまったようだ。

途中、何度か目が覚めた。

そして、夢を見続けた。

そのすべての夢の中に、妻がいた。

3度目の夢の中で、妻を抱いた。

すべてがうまくいったのか。

だからこうして、妻を抱いていられるのか。

信じ難いことが、今起きていた。

妻が笑っている。

これは夢なのではないか。

そう思った時、夢だと気付いた。

それでも、少しの間、夢を見続けていた。

このまま、目覚めたくない。

とても優しくて、暖かい。

そして俺は、夢から覚めた。



妻はすでに出かけていて、俺は出社するまでに、大分時間あった。

テーブルの上に並べられた朝食を食いながら、TVのニュースを見た。

すでに嵐は去っている。



昨夜観た夢を思い出した。

妻の温もり。

この手にはっきりと感じられた。

思わず、鼻で笑った。

それは俺の妄想で、ただの夢に過ぎないのだった。



携帯が鳴った。

妻からのメールで、家の中を掃除するようにとの内容だった。

俺は一度、掌を見つめてから立ち上がり、食器を洗い始めた。