娘との時間
暑さで目が覚めた。
妻はすでに起きていて、食事の準備を始めているらしかった。
それでも起き上がれずに、妻が立てている物音を聞いていた。
体がべたついていた。
口の中が痛い。
舌や唇が炎症を起こしていて、ものを喰うときに痛たかった。
今は、唾を飲むだけで痛む。
「おかあちゃん」
寝室から声がした。
寝室へ行くと、娘はまだ眠っていた。
うつ伏せに寝ている娘の顔を覗き込んだ。
目を開けている。
娘と一緒に横になって、布団に押し付けられたその顔を見つめていた。
エアコンが効いていて心地よい。
あまりの愛くるしさに、無理やり抱きしめたり、頬擦りなどをしてしまう。
だから、娘は嫌がるのだと妻が言っていた。
たしかに、俺がそうしたとき、娘は腕を突っ張って、俺を引き剥がそうとするのだった。
3人で食事をした。
娘はちょっと食事をすると飽きてしまい、甘いものを喰いたがった。
ヨーグルトをスプーンで上手に喰っていた。
いつも手掴みで喰っているので、こんなに上手にスプーンを使えるのかと、しばし驚いた。
妻は食事終えて出掛けていった。
習い事である。
それが終わると、今度は娘の習い事である。
俺は口内炎のせいで、なかなか食事が進まず、まだ食べ続けていた。
娘が、にこにこしながら足に抱きついてくる。
抱きしめたくなる衝動に駆られたが耐えた。
かわりに、頭をそっと撫でた。
冷蔵庫を開けて、一口サイズのゼリーをつかみ出し、微笑みながら俺に差し出す。
どうもありがとう。
そう声をかけたが、首を横に振っている。
蓋を開けろということなのだった。
「うまいか」
そう言うと、ちょこんと頭をさげた。
娘を車に乗せて、妻の元へ行った。
そこで、娘をひろってプールへつれて行く。
「今日は花火大会だからね」
妻が言った。
俺は仕事だと言うと、ちょっと驚いたような顔をした。
仕事だとは思っていなかったようだった。
「それじゃあ○○と一緒に行って来るから」(○○は娘の名前)
そう言って、こちらを探るような視線を向けて、ちょっと笑った。
家に戻り、娘たちと同じおにぎりを箱に詰めた。
カーテンが揺れている。
それを、ぼんやりと見つめていた。