怒鳴り声
忙しい朝だった。
その日は、住宅メーカーのイベントに参加し、夕方は花火である。
妻に急かされ、荷物をまとめた。
家の中を駆け回り、ふと、ポケットに手を入れる。
小さな袋を取り出した。
昨日、缶ビールとともに手渡されたつまみだった。
俺はそれをテーブルの上に放った。
「なんで、そうやって物を投げるわけ」
突然、妻が怒鳴り声を上げた。
「投げてねえよ」
おもわず言った、この一言が妻をさらに怒らせることとなった。
「投げたじゃない」
俺も、怒鳴り声を上げていた。
「何故こんな些細なことで、怒られなきゃならねんだよ」
「何であなたは、いつもこうなのよ。私には物を投げたようにしか見えないから」
俺は、自ら犯したミスを悟った。
投げていないと、言ったことについて、妻は責めているのだった。
反吐が出そうなくらい、胸がむかついていた。
そして、それが一日続いた。
花火が終わって、渋滞の中、帰路についた。
妻は助手席で腕を組み、俺の運転に四六時中ケチをつける。
何なんだよ。
そう言うと、あなたの運転は安心していられないと言う。
歯軋りをしながら、それに耐えた。
お前の運転は、もっと酷い。
喉元まで出かかった言葉を、飲み込んだ。
しばらくすると、妻は寝てしまったようだった。
俺は大きな、ため息をついた。
「こっちはあんたより先に起きたのだから、寝たっていいでしょ」
いきなりだった。
妻の怒鳴り声である。
もう、言い返す気力もなかった。
完全に逃げ道を塞ぐ。
それが妻のやり方だった。
酷いよな、などと言ったところで、妻は何も感じないのだろうと思う。
心の中で、何かが膨らんでいった。
そして、その分の希望も消えた。