夏祭り | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

夏祭り

娘と妻が、祭りのイベントに参加した。

グループで踊ったりする。

二人の姿をビデオで撮影した。


妻は化粧をしていた。


結婚する前、逢ったときはいつもきちんと化粧をしていたものだ。

怪しい天気だった。

ちょっと曇っていたが、二人がステージに立つ間、空模様は何とかもった。

イベントが終わり、露店が立ち並ぶ歩行者天国を3人で歩いた。


「はいこれ」


1000円札1枚が、支給された。

俺は缶ビールを買った。

3本飲んだところで、気持ちが緩んできた。



今朝も、目覚めると文句の言葉を浴びせられた。

庭がこんな状態なのに平気な顔して。考えられない。どんな育てられ方したの。

俺は8時半くらいに庭に出て、2時くらいまで草を取り続けたのだった。


「あら、どうも」


妻の知り合いの夫婦だった。

俺も、引きつったような笑顔を返した。

仲の良さそうな夫婦。

俺はそれを演じなければならなかった。

目の前の夫婦は、見たとおり、普通の夫婦なのだろう。

俺は違う。

指一本、妻に触れることは許されないのだった。



別のイベント会場に移動した。

気持ちが緩んでいたせいなのか、俺は妻に触れたい衝動に駆られた。

こっちだよという感じで、歩道を歩きながら、俺は妻の腕をつかんだ。


「ちょっと、触らないでくれる」


俺の気持ちは、一瞬で冷めていった。

自分のしたことに、自嘲するしかなかった。

周りの喧騒が遠く感じる。


また、酒を飲んだ。

そして、さらに気持ちが冷めてゆく。

このままどこかへ、消えたい。

それが現実的に、思えた。

さらに酒を飲むと、その気持ちが強くなってゆく。

俺は酒を飲み続けた。



「ただ、生きているだけ」



心の中で、何度も呟き続けていた。


「生きていても死んでいても同じ、か」

そんな考えにたどり着いて、もう考えることをやめた。



遠くで、花火の上がる音が聞こえた。