通り過ぎた、嵐
空が碧かった。
台風で、薄汚れた大気も吹き飛ばされてしまったのだろうか。
そのかわり、ひどく蒸し暑かった。
フェーン現象というやつだろう。
カーエアコンの調子もまずまずだった。
先日まで、まったく冷えなかった。
ガスが抜けていたのだ。
うだるような暑さに耐えかね、妻に懇願して、冷媒用のガスを補充したのである。
今のところ、漏れずに車内を冷やし続けている。
アンダーワールドのボーンスリーピーを大音量でかけた。
自然と、アクセルを踏み込んでしまう。
このまま、どこかへ行ってしまいたいと、刹那、考えた。
それは、どこかであって、特にここという場所は思い当たらなかった。
家に帰りたくないということなのだろうか。
今朝家を出る時、下駄箱の上に、金が置かれていた。
それを見て、なぜか無性に腹が立ったのだった。
金に手を出さず、そのまま家を出た。
今月分の燃料代は、もう間に合うだろう。
残った小銭は、今日使い切るつもりだった。
昼飯など喰わずに我慢すればいい。
そろそろ、背中を丸めて小さくなっていることに耐えられなくなってきたのかもしれない。
俺は、俺なのだ。
エンジンから嫌な音がしていた。
騒音と言っていい音である。
それに合わせてカーステレオの音量も、上げた。
音楽しか聞こえない。
シンセサイザーの無機質なビートが心地よかった。
おもわず目を閉じてしまいたくなるのを堪え、さらにアクセルを踏み込んだ。
ハンドルが小刻みに揺れ始める。
それでも、主婦のようなおばさんの運転するコンパクトカーに、あっさりと抜きされてしまったのだった。