絵 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

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テーブルの上に、紙切れが置かれていた。

よく見ると、娘の描いた絵であった。

クレオンが散らばったままになっている。

拾い上げてケースに入れた。

誰もいない部屋で、娘の絵を観続けていた。


お父ちゃんを描いてごらん。

そう言うと、器用に手首を返して円を描く。

次はわんわんを描いて。

そのまま、すぐ横のスペースにクレオンを走らせる。

描かれたものは、俺の顔と同じような円だった。


娘の後ろ姿をみて、子供の頃を思い出したのだった。

兄弟のいない俺は、家の中で一人、絵を描いたりして過ごした。

お袋に、兄弟が欲しいと言った事がある。

お父さんに相談するね。

そう言って、お袋は笑っていた。


娘には悪いことをした。


弟や妹と遊ぶことは多分ないだろう。

妻が娘に、兄弟が欲しいと言われたとき、何と答えるのだろうか。

そんなことを考えると、暗いものが目の前を覆った。