雨音 | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

雨音

雷雨。

激しく降りつける雨で、路面が泡立ったようになっている。

すでに日は落ちて、周囲は闇だった。

外灯と自動販売機の明かりを照り返し、黒い路面が白く滲んでいた。

雨の中から、微かに土の匂いがする。

頬杖をして、それをテントの下で眺めていた。

夏祭りの準備が終わり、一服しているときの雨である。


「お前の親父と、よく酒を飲んだよ」


声をかけられた。

親父の遊び友達だった。

生前、よく家に来て酒を飲んでいた。

病気になり、親父が酒を断ってからもそれは続いた。

親父は、一滴も飲まずにその人に付き合っているのだった。

手土産として時々持ちこまれた自然薯が、旨かった。

親父が死んでからは、喰っていない。



俺は、曖昧に返事をして、黒く濡れた路面に視線を戻した。

雷鳴と雨音を聞いていたかった。

何時間でも、飽きずに聞き続ける事が出来そうだった。


「お前の親父は、、、、」

その後の言葉は、雷鳴にかき消された。

同時に、稲妻で目の前が白く反転した。


「親父は酒が強かった」

同じことを、何度も繰り返してしまう。

酔うと、こうなっってしまうのだろう。

俺は笑顔を貼り付け、適当にそれに応じた。

「こいつも、強いよ」


別の方向から、声がした。

同じ役員を一緒にやっている人だった。



特別、酒に強いわけではなかった。

酒量が増えれば、当然酔ってしまう。

何故か、陽気な気分になれないだけなのだった。

飲み続けると、気持ちが冷めていく。

そして、少しだけ絶望感を忘れることが出来るのだった。


「いくら飲んでも、かわらねえよな」

紙コップに、ビールが注ぎ足された。

一気に飲み干す。




雨音が心地いい。

俺は酔っているのだろうか。

それは体だけで、心は酔っていないのではないのか。


「もうそろそろ、止みそうだな」

ビールが注がれた。


酔いで手元が狂っているのか、溢れてテーブルを濡らした。


「そうですね」

言いながら、俺は心の中では、いつまでも降り続ければいいと思っているのだった。