消失
「何して遊んでいるんだか知らないけど、玄関のチェーンくらいかけられない訳」
今日は日曜日である。
そんな言葉を浴びせられるのは嫌なので、起床後、すぐに庭の草取りをした。
その後は、一日中、車の運転だった。
帰宅後、妻が娘を風呂に入れた。
その間、遊んでいたとでも言いたいのか。
玄関の鍵くらい、気が付いたら黙って閉めればいいじゃないか。
それをあえてしないことで、俺の至らなさを攻める材料にしたいだけなのか。
一日中、頭痛に悩まされた。
途中、ドラックストアで薬を買おうと思ったが、やめた。
ガソリン代が無くなり、通勤出来なくなるからだ。
一ヶ月分のガソリン代を、一度に渡すということは、何故かしない。
5千円くらいずつに分けて渡されるので、薬も買えないのだった。
毎月、3千円ほど余る。
それが自由に使える金だった。
それでも、俺の稼ぎからすれば恵まれているといっていい。
反吐が出るほど憎いのならば、憎めばいい。
言いたいだけ言って気が済んだのなら、冷房の効いた部屋でゆっくり休めばいい。
俺に出来ることは、妻の隣で一緒に寝ることではなく、妻の目に触れぬように別の部屋で寝ることくらいのものだ。
頭痛による吐き気を、堪えた。
窓を開け放つ。
風が止んでいる。
馬鹿げた考えが、頭の中に渦巻いていた。
いくら考えても、たいした名案は浮かばない。
ただ、妻の前から消えたいと思う。
そして、寝ている間だけ、消えることが出来るのだった。